温暖化対策の論点(上) 技術革新による好循環カギ

秋元圭吾 地球環境産業技術研究機構主席研究員

ポイント
○世界で排出削減するには技術革新が必須
○大きな対策費用は持続可能な発展を阻害
○着実な削減のため高効率火力も排除せず

2019年も台風、大雨による大きな被害が日本を襲った。人為的な温暖化ガス排出増大が一定程度は影響を及ぼしていると見るべきだろう。二酸化炭素(CO2)排出の削減は喫緊の課題といえる。一方、2015年の第21回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)で定められた「パリ協定」では、すべての国が排出削減に取り組む枠組みとなったが、世界は一枚岩ではなく、トランプ政権の米国は4日、離脱手続きの開始を国連に通告した。

今後も国際協調に背を向けるリーダーが現れる可能性は高いと見るべきだろう。国連に提出されている2030年ごろのCO2の国別排出削減目標(NDCs)でも、特段の努力なしになりゆきで達成可能な目標しか提出していない国も多い。

とはいえ、21世紀に入って多くの先進国は排出量を低減させてきた。大きく低減したのは京都議定書を離脱し、パリ協定も離脱通告した米国なのは皮肉である。これはシェールガスが安価に生産できるようになり、石炭からガスへの転換が進んだことと、製造業が国際競争力を落とし、中国などにとって代わられた結果である。

ただし製造業のCO2は排出する場所が変わっただけの話だ。これは欧州も同様である。日本はこれまで製造業を比較的維持してきたが、電力料金が上昇する中、欧米同様の懸念を持たなければならない。結局、世界全体で排出削減ができなければ意味がない。

例えば2013~2016年の間、世界経済は順調だったがCO2排出量はほぼ横ばいで、気候変動対策が成功しつつあるとされた。再生エネルギー利用拡大効果を指摘する向きもあった。しかし実際は、中国などが鉄鋼製品などエネルギーを多く消費する素材製品で2013年以降に生産調整を行ったことと、米国のシェールガス拡大が加わったためである。中国の生産調整が一段落し、鉄鋼生産が回復した2016年を境に、世界のCO2排出量は再び増大傾向に戻った。

◇   ◇

世界のCO2排出量の大幅な削減を考えるとき、このシェールガスの成功が好事例になる。イノベーション(技術革新)によって安価にガス生産が可能となり、経済自律的に選択され、CO2排出削減にも貢献した。製造業の海外移転を抑え、自国も世界も同時に大幅な排出削減を実現するためには、イノベーションが不可欠である。

不確実なイノベーションに頼るべきではないとの指摘もあり、部分的には同意する。しかし、国際的な協調体制確立がイノベーション以上に期待薄な中で、強力な国際協調がなくても排出削減に取り組める安価な対策オプションが広がらなければ、掛け声だけで大幅な排出削減にはつながらないだろう。

 

パリ協定における、平均気温上昇を産業革命以前から2度や1.5度に抑えるという目標、またCO2の正味排出量ゼロというのも、技術的には実現可能である。しかし、その最大の課題は費用だ。排出を大きく削減し、ゼロ排出に近付けようとすれば、費用は大きく上昇する。

気候変動に関する政府間パネルIPCC)の「1.5℃特別報告書」によれば、各種対策技術による漸進的な費用低減を見込み、かつ世界最小費用の場合でも、気温上昇を2度に抑えるというシナリオにおいて、2050年にCO2重量換算で1トンあたり45~1050ドル(中央値は130ドル程度)、1.5度では同245~1万4300ドル(同2800ドル程度)もの限界削減費用(この費用の対策を実施したとき、目標達成が期待できる水準)が必要になると推計されている。

欧州の排出量取引制度の炭素価格は最近上昇し、CO2重量換算で1トンあたり25ユーロ前後になっているが、これと比較してもいかに高いかが理解できる。また、国際協調関係が乏しい環境では、国、部門によって限界費用を一致させるような対策をとることも難しいため、この推計費用の何倍にもなる可能性が高い。排出削減に費用をかけ過ぎれば、気候変動問題のさらに上位概念である貧困問題などにも悪影響を及ぼし、持続可能な発展をかえって実現できなくなる。

そのため、イノベーションによって安価な対策オプションを創出する必要があるのだ。政府は、2050年以降に向けた戦略として、20カ国・地域(G20)首脳会議前の2019年6月に「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」を策定。そこで「最終到達地点として『脱炭素社会』を掲げ、それを野心的に今世紀後半のできるだけ早期に実現することを目指す」とした上で、イノベーションを推進し、環境と経済の好循環を実現するとした。これは適切な方向性だと考える。

再エネ、二酸化炭素回収・利用・貯留(CCUS)、水素、蓄電池、バイオ関連技術などは将来有望である。そしてこれらが同時に大幅に安価になって、システムとして機能したとき大きな効果を発揮する。さらにIT(情報技術)の役割も極めて大きい。デジタル技術が進展し、他技術の進展と相まったとき、社会のイノベーションが実現できる。シェアリングやサーキュラーエコノミー(循環経済)はその代表である。

エネルギーは最終利用に近いところで無駄が多いが、デジタル技術の進展と高度な活用によって、モノ、サービスと一体化されたエネルギーを含めて低減できる可能性が出てきている。デジタル技術は一見すると排出削減対策ではないが、こういった裾野の広い技術の進展が伴って初めて、低排出・ゼロ排出社会の扉が開くだろう。

むろん温暖化、エネルギー技術そのものの研究開発・実証・展開は重要だ。だが、直接的ではない技術の開発、進展を図ることにも注力すべきだ。これには、産官学、産業部門間、中央・地方政府の連携を築き、イノベーション誘発を加速しなければならない。

◇   ◇

あきもと・けいご 70年生まれ。横浜国立大博士(工学)。専門はエネルギーシステム・気候変動緩和策

あきもと・けいご 70年生まれ。横浜国立大博士(工学)。専門はエネルギーシステム・気候変動緩和策

ただ最近の議論は脱炭素化の議論が中心で、2度目標への道がはるか遠い状況なのに、最近は1.5度目標へとゴールが動いてきていることには懸念がある。そして、石炭火力発電のみならず、天然ガス利用まで否定するような論調さえ見られる。

高効率石炭火力は短・中期では世界的には有用なオプションだし、国内外での天然ガス利用の拡大も効果が大きい。さらに原子力は安全・安心の課題はあるが、費用対効果の高いCO2削減技術であり、気候変動抑制に明らかに大きな効果を発揮する。このような、足元の着実な排出削減と長期に向けたイノベーションの組み合わせこそが重要である。

個別技術のリスクと気候変動リスクとのトレードオフ(相反)、他技術との相対的な費用関係、時間軸をよく見極めることが肝要だ。削減水準にしても、技術にしても、善悪で分けるのは単純で素人受けしやすいが、弊害が大きい。日本は二分論にくみせず、総合的で適切なリスク管理を志向すべきであろう。

個人情報の利用目的

当ブログでは、メールでのお問い合わせ、メールマガジンへの登録などの際に、名前(ハンドルネーム)、メールアドレス等の個人情報をご登録いただく場合がございます。

これらの個人情報は質問に対する回答や必要な情報を電子メールなどでご連絡する場合に利用させていただくものであり、個人情報をご提供いただく際の目的以外では利用いたしません。


個人情報の第三者への開示

当サイトでは、個人情報は適切に管理し、以下に該当する場合を除いて第三者に開示することはありません。

・本人のご了解がある場合

・法令等への協力のため、開示が必要となる場合

個人情報の開示、訂正、追加、削除、利用停止

ご本人からの個人データの開示、訂正、追加、削除、利用停止のご希望の場合には、ご本人であることを確認させていただいた上、速やかに対応させていただきます。


アクセス解析ツールについて

当サイトでは、Googleによるアクセス解析ツール「Googleアナリティクス」を利用しています。

このGoogleアナリティクスはトラフィックデータの収集のためにCookieを使用しています。このトラフィックデータは匿名で収集されており、個人を特定するものではありません。この機能はCookieを無効にすることで収集を拒否することが出来ますので、お使いのブラウザの設定をご確認ください。


広告の配信について

当サイトは第三者配信の広告サービス「Google Adsense グーグルアドセンス」を利用しています。

広告配信事業者は、ユーザーの興味に応じた広告を表示するためにCookie(クッキー)を使用することがあります。

Cookie(クッキー)を無効にする設定およびGoogleアドセンスに関する詳細は「広告 – ポリシーと規約 – Google」をご覧ください。

第三者がコンテンツおよび宣伝を提供し、訪問者から直接情報を収集し、訪問者のブラウザにCookie(クッキー)を設定したりこれを認識したりする場合があります。


当サイトへのコメントについて

当サイトでは、スパム・荒らしへの対応として、コメントの際に使用されたIPアドレスを記録しています。

これはブログの標準機能としてサポートされている機能で、スパム・荒らしへの対応以外にこのIPアドレスを使用することはありません。また、メールアドレスとURLの入力に関しては、任意となっております。全てのコメントは管理人が事前にその内容を確認し、承認した上での掲載となりますことをあらかじめご了承下さい。加えて、次の各号に掲げる内容を含むコメントは管理人・瑚心すくいの裁量によって承認せず、削除する事があります。

・特定の自然人または法人を誹謗し、中傷するもの。

・極度にわいせつな内容を含むもの。

・禁制品の取引に関するものや、他者を害する行為の依頼など、法律によって禁止されている物品、行為の依頼や斡旋などに関するもの。

・その他、公序良俗に反し、または管理人・瑚心すくいによって承認すべきでないと認められるもの。


免責事項

当サイトで掲載している画像の著作権・肖像権等は各権利所有者に帰属致します。権利を侵害する目的ではございません。記事の内容や掲載画像等に問題がございましたら、各権利所有者様本人が直接メールでご連絡下さい。確認後、対応させて頂きます。

当サイトからリンクやバナーなどによって他のサイトに移動された場合、移動先サイトで提供される情報、サービス等について一切の責任を負いません。

当サイトのコンテンツ・情報につきまして、可能な限り正確な情報を掲載するよう努めておりますが、誤情報が入り込んだり、情報が古くなっていることもございます。

当サイトに掲載された内容によって生じた損害等の一切の責任を負いかねますのでご了承ください。