AIが探し出す運命の人 恋愛のパターン化なるか

「あらゆる人智の中で結婚に関する知識が一番遅れている」――。奔放な女性遍歴で知られる19世紀のフランスの文豪、バルザックは著書「結婚の生理学」の中でこんな言葉を残した。恋愛、結婚はいつの時代も人々を悩ませる永遠の課題だ。最高のパートナーへの運命の赤い糸。人工知能(AI)など技術の発達が著しい昨今、たぐり寄せるのは仲人でも友人でもなく「ラブテック」だ。

「彼の行きつけのカレー屋で行列に3時間並んだんですけど、話が尽きなくて」。東京都世田谷区に住む井上桃子さん(34)は2014年、豪希さん(同)との出会いをこう振り返る。豪希さんは九州から千葉に引っ越したばかり。勤め先に女性は少なく、同世代もいない。「結婚には向かないと思っていたけれど、さみしくて」。そんななか出会ったのが桃子さん。1年半の交際を経て2人は結婚した。

2人の出会いのきっかけはエウレカ(東京・港)が12年に配信を始めた「ペアーズ」。日本・台湾・韓国で累計会員数が1000万人を突破した、インターネット上で恋人を探す「マッチングアプリ」の一つだ。アプリ上で出会った2人はお互いに「いいね」を送り合うとメッセージをやり取りできる。

後輩の独身男性記者(23)がペアーズでパートナーを探してみた。登録するとまず、自らのプロフィルを入力する。身長や出身地、職種・年収といった基本情報から、結婚や家事に対する価値観、社交性といった詳細な情報まで項目数は約30。自由記入欄もある。「入力するのも一苦労」(同記者)。ただここまでは他のマッチングアプリと大差ない。

複雑なアルゴリズムが結ぶ赤い糸

ペアーズの特徴の一つが「コミュニティ」だ。「米津玄師が好き」「コーヒーを飲まない日はない」「休日はたっぷり寝る」といった趣味や価値観、ライフスタイルが共通する人たちが登録する。その種類は10万以上にのぼる。後輩記者の趣味である野球観戦や「ひとりカラオケ」に関するものもある。自分に合うものがなければ、作成することも可能だ。

恋愛出会い

利用者が希望条件を入力すると、システムが相互に「いいね」を送り合う(マッチする)可能性が高い人のプロフィルを表示する。ここで考慮されるのが、サービスをよく利用する時間帯やその頻度などアプリ上の行動履歴だ。利用者のライフスタイルを予測し、パートナー候補の推薦に生かす。仕事にまだ慣れない後輩記者はアプリを深夜に使うことが多い。すると同じような生活リズムの相手が表示されやすい、といった具合だ。相性は良さそうでも、多くの人から「いいね」をもらっていたり、利用頻度が低かったりする相手はマッチする可能性が比較的低く、優先順位は下がりやすい。

膨大な情報を基に、エウレカはどういった特徴を持っている利用者が、どんな相手とマッチしやすいかを分析。数式化してアルゴリズム(計算手順)を作り上げる。井上夫妻は料理にインテリアなど趣味の共通項目は多かったものの「性格は真逆」(桃子さん)。なぜマッチしたかは「エンジニアでもわからない」(最高技術責任者の金子慎太郎氏)。複雑に構成されたアルゴリズムがペアーズの肝になっている。

国立社会保障・人口問題研究所の「出生動向基本調査」によると、年間100万組が結婚していた1970年代前半までは「お見合い」が主流だった。女性の社会進出が進むと職場結婚が増えるが、90年ごろからこれも減る。00年代まで年間70万台を保った婚姻件数は18年、60万件を割った。

ただ人々の結婚願望はついえたわけではない。「いずれ結婚するつもり」の18~34歳の未婚者は15年で男性で全体の約86%、女性で約89%だ。一方で25~34歳の未婚者が独身でいる理由で最多なのが「適当な相手にめぐり合わない」ことだという。そこで台頭するのがマッチングアプリだ。アプリ配信の「グーグルプレイ」上には、少なくとも500件以上が乱立し、利用者を奪い合う。

結婚経路

リクルートマーケティングパートナーズ(東京・品川)のリクルートブライダル総研の婚活実態調査によると18年に結婚した人のうち、7.4%がネット系の婚活サービスを通じてパートナーを見つけたという。

恋人づくり、米国男女の4割がネット経由

「欧米ではデートアプリを通じて結婚する人が3割を超えている」と指摘するのはマッチングサービス世界大手、米マッチグループの最高経営責任者(CEO)のマンディー・ギンズバーグ氏。18歳以上の米国在住の男女のうち約4割が異性のパートナーとネットを経由して出会った――。米スタンフォード大学などの研究チームはこんな調査結果を公表。欧米ではマッチングアプリでの出会いが今や主流だ。ただ利用者の中には、いわゆるデート商法や反社会的な団体への勧誘、さらには売買春など犯罪行為のためにアプリを使おうとする人もいる。利用の際は運営者による投稿などの監視や個人情報管理の体制を確認しておく必要がある。

「恋愛はパターン化していけるはず」。エウレカCEOの石橋準也氏は東京大学と組み、ペアーズでのAIの本格活用を視野に入れる。利用者が増えれば増えるほど出会いの「経験」を蓄積していくマッチングアプリ。データは格好の研究材料だ。東大の山崎俊彦准教授は「一見関係ないデータでも大量に読み込めば精度が上がるというのが今のAI研究の潮流」と話す。研究ミッションは「必然の出会いだけでなく偶然の出会いを創り出すこと」。データを分析するとなぜか「お風呂好きの女性」と「犬好きの男性」は相性が良いという。「希望条件から多少ずれていても、『きっと気に入るからプロフィルを見てみませんか』と推薦し、出会いの可能性と質を上げるAIにしたい」(山崎氏)。米国で主流の「イーハーモニー」は英インペリアル・カレッジ・ロンドンと共同研究するなど、多くのアプリでAIを出会いに生かす試みが進む。

ほほの内側の細胞で未来のパートナーを探します――。米スタートアップ企業が運営する「Pheramor」は利用者から採取した遺伝子情報を基に見知らぬ2人の相性を判断しようとする。もはやマッチングアプリはデータを基に人と人の「運命」を予測し結びつける、いわば「アダム」と「イブ」を創造した聖書における唯一神ヤハウェ」の域を目指すのか。

1800年代を生きたドイツの詩人、ハインリヒ・ハイネは結婚を「いかなる羅針盤もかつて航路を発見したことのない荒海」と例えた。マッチングアプリはまだ見ぬ結婚の羅針盤としてディスラプション(創造的破壊)の波を起こしている。

失恋までアプリが差配?

「相性が95%だったのに『いいね』が返ってこなかった」――。ネット上では、ペアーズの利用者からこんな声があがることもある。「相性」とはペアーズのシステムがプロフィルの共通項の多さなどからはじき出す数値。利用者がパートナーを探す際、重要視する項目の一つだ。

マッチングアプリがいくら個々に最適なパートナー候補を推薦したとしても、恋が成就するかは利用者次第。思ったような人となかなか出会えないといった不満もある。どんな時代でも人間関係を形作るのはヒト対ヒトのフィーリングだ。

「そう焦らずに、じっくり関係を作った方がいい」――。米国で今話題のマッチングアプリ「AIMM」は人工知能(AI)が恋の指南役だ。「自分は猫派だと思う?」「将来のマイホームの希望は?」。こんな会話をAIと進めるだけでプロフィルが完成。パートナーを推薦すると、最初のデートのアドバイスからデート後の講評までをAIがしてくれる。

エウレカCEOの石橋氏は「恋愛が全て脳内で起こる感情なら、シンギュラリティー(技術的特異点)の到来で全パターンを網羅できるようになるかもしれない」と話す。AIが人間の知性を超えれば、恋愛の酸いも甘いも先回りして、失敗を回避できるようになる究極の最適化が進むのだろうか。

一方で石橋氏は「アルゴリズムは常に新しい組み合わせを試さないと成長しない」とも話す。ペアーズの精度がどれだけ上がっても「ランダム性を持たせて、出会わなかったはずの2人の出会いの結果を学習させていく」という。失敗をいとわずチャレンジしないとAIは成長しない。アプリはうまく利用者に失恋させながら成長していく、ともいえるか。

恋愛で一度は失敗した方がよい、なんてことはよく言われるが、近い未来、AIが失恋をも差配する時代がやってくるのかも。それは少しさみしい気もする。

文 高尾泰朗氏 写真 柏原敬樹氏

個人情報の利用目的

当ブログでは、メールでのお問い合わせ、メールマガジンへの登録などの際に、名前(ハンドルネーム)、メールアドレス等の個人情報をご登録いただく場合がございます。

これらの個人情報は質問に対する回答や必要な情報を電子メールなどでご連絡する場合に利用させていただくものであり、個人情報をご提供いただく際の目的以外では利用いたしません。


個人情報の第三者への開示

当サイトでは、個人情報は適切に管理し、以下に該当する場合を除いて第三者に開示することはありません。

・本人のご了解がある場合

・法令等への協力のため、開示が必要となる場合

個人情報の開示、訂正、追加、削除、利用停止

ご本人からの個人データの開示、訂正、追加、削除、利用停止のご希望の場合には、ご本人であることを確認させていただいた上、速やかに対応させていただきます。


アクセス解析ツールについて

当サイトでは、Googleによるアクセス解析ツール「Googleアナリティクス」を利用しています。

このGoogleアナリティクスはトラフィックデータの収集のためにCookieを使用しています。このトラフィックデータは匿名で収集されており、個人を特定するものではありません。この機能はCookieを無効にすることで収集を拒否することが出来ますので、お使いのブラウザの設定をご確認ください。


広告の配信について

当サイトは第三者配信の広告サービス「Google Adsense グーグルアドセンス」を利用しています。

広告配信事業者は、ユーザーの興味に応じた広告を表示するためにCookie(クッキー)を使用することがあります。

Cookie(クッキー)を無効にする設定およびGoogleアドセンスに関する詳細は「広告 – ポリシーと規約 – Google」をご覧ください。

第三者がコンテンツおよび宣伝を提供し、訪問者から直接情報を収集し、訪問者のブラウザにCookie(クッキー)を設定したりこれを認識したりする場合があります。


当サイトへのコメントについて

当サイトでは、スパム・荒らしへの対応として、コメントの際に使用されたIPアドレスを記録しています。

これはブログの標準機能としてサポートされている機能で、スパム・荒らしへの対応以外にこのIPアドレスを使用することはありません。また、メールアドレスとURLの入力に関しては、任意となっております。全てのコメントは管理人が事前にその内容を確認し、承認した上での掲載となりますことをあらかじめご了承下さい。加えて、次の各号に掲げる内容を含むコメントは管理人・瑚心すくいの裁量によって承認せず、削除する事があります。

・特定の自然人または法人を誹謗し、中傷するもの。

・極度にわいせつな内容を含むもの。

・禁制品の取引に関するものや、他者を害する行為の依頼など、法律によって禁止されている物品、行為の依頼や斡旋などに関するもの。

・その他、公序良俗に反し、または管理人・瑚心すくいによって承認すべきでないと認められるもの。


免責事項

当サイトで掲載している画像の著作権・肖像権等は各権利所有者に帰属致します。権利を侵害する目的ではございません。記事の内容や掲載画像等に問題がございましたら、各権利所有者様本人が直接メールでご連絡下さい。確認後、対応させて頂きます。

当サイトからリンクやバナーなどによって他のサイトに移動された場合、移動先サイトで提供される情報、サービス等について一切の責任を負いません。

当サイトのコンテンツ・情報につきまして、可能な限り正確な情報を掲載するよう努めておりますが、誤情報が入り込んだり、情報が古くなっていることもございます。

当サイトに掲載された内容によって生じた損害等の一切の責任を負いかねますのでご了承ください。