「サブスク」事業、米IT大手とネットフリックスの違いとは(上)

テクノロジーアナリスト/GFリサーチ 代表 泉田良輔

サブスクリプション」は日本語では定期購読や定期購入を意味し、「サブスク」と略される。新聞や雑誌などでは当たり前の購入スタイルだが、このサブスクリプション方式が現在、インターネットのビジネスモデルとして注目を集めている。

 映画・ドラマなどの動画を視聴できる「ネットフリックス(Netflix)」、スポーツ好きには欠かせなくなった試合中継の「ダゾーン(DAZN)」、利用者の好みに合った音楽を選曲し配信する「スポティファイ(Spotify)」、アマゾンの様々なサービスを利用できる「アマゾン・プライム(Amazon Prime)」など――こうした一定額を払うと見放題や聞き放題になるネットサービスが、サブスクリプション方式のビジネスモデル(以下、サブスクリプションモデル)を採用していると呼ばれる。

 サブスクリプションモデルを採用しているのは消費者向けのネットサービスだけではない。クラウドサービスやビジネスソフトウエアなど、企業向けの製品・サービスにおいても似たようなビジネスモデルが存在感を増している。

 このサブスクリプション方式を採用したビジネスは、どの程度の規模にまで成長するのだろうか、将来はすべてのビジネスがサブスクリプションモデルになってしまうのであろうか。ここでは、GAFA(グーグル、アマゾン・ドット・コムフェイスブック、アップル)やマイクロソフトといった米大手IT企業とネットフリックスそれぞれの取り組みを見ながら、サブスクリプションモデルの可能性について見ていきたい。

広告モデルからサブスクリプションモデルへの転換は大きな流れ

 そもそも「サブスクリプションの何が新しいのか」という声はあると思う。ただ、これまでインターネットのサービスを提供し、グローバルで大きくなった企業は、広告を主な収益源にしており、消費者には課金しないビジネスモデルを採用していた。サブスクリプションモデルはその流れを変え、消費者に課金することで収益を得ようとする点で大きな転換であるのは間違いない。

 たとえば、グーグル。同社の売上高のほとんどは広告収入だ[1]。この広告費用は広告の出稿者が支払い、検索を実行する、あるいの検索した記事や動画などのコンテンツを視聴する利用者には課金されない。月間利用者が24億人(2019年第2四半期)に達するSNS(交流サイト)のフェイスブックも同様に売上高のほとんどが広告収入だ[2]。広告がよく出てくると感じる利用者は多いだろうが、SNSに投稿したり閲覧したりするときに費用は一切かからない。

 しかし、グーグルは最近、世界最大の動画共有サービスである「ユーチューブ(YouTube)」で「ユーチューブプレミアム(YouTube Premium)」という月額課金のサービスを始めている。そもそも無料で動画を共有できるのがユーチューブの特徴だが、月額1180円のユーチューブプレミアムに加入することによって、広告なしで動画を視聴する、ユーチューブオリジナルの映画やドラマを視聴するといったことが可能になる。

 サブスクリプションモデルは、企業向けネットサービスでも存在感を増している。

 まず、よく知られているが、アドビは、デザインやドキュメント関連のビジネスパソコンソフトウエアを、パッケージによる売り切り販売から、サブスクリプションモデルでの提供に切り替えた。売り切りの場合、購入時点の機能は保証されるが、大きな機能向上は行われない。それに対して、サブスクリプションモデルに基づく提供では、利用者が支払いを続ける限り、バージョンアップによる機能追加が可能になる。

 サーバーというコンピューターやアプリケーションソフトウエアをインターネット経由で提供するクラウドサービスも広い意味のサブスクリプションモデルを採用していると言える。月単位、あるいは短いものでは秒単位の課金でサーバーなどを利用することができる。もっとも、これはサービスメニューに応じて料金が変化する「階段型サブスクリプション」と呼んだほうがよさそうだ。

米IT大手はサブスクモデルへの取り組みに大きな温度差

 次に、このサブスクリプションモデルのビジネスへの転換がどれくらい進んでいるのか、米国IT大手の動向を見てみよう。

 グーグル、アップル、フェイスブックアマゾン・ドット・コムは「GAFA」という言葉でひとくくりにされるものの、ビジネスモデルはそれぞれ異なる。先ほど見たように、グーグルとフェイスブックは広告収入を主にしているが、アップルとアマゾンはどうであろうか。

 アップルはiPhoneをはじめとしたハードウエア商品の販売が主軸であるものの最近は落ち込むこともある状態だ。それを補うべく成長を続けているのが、音楽や映画をネット経由で販売する「アイチューン(iTunes)」のようなサービス事業だ。さらにそのサービス事業の中でも音楽が聞き放題になる「アップルミュージック(Apple Music)」のようなサブスクリプションモデルによる収入の増加が目覚ましい。音楽ビジネス業界では、スポティファイをはじめとするサブスクリプションモデルの事業が拡大傾向にあるため、アップルもビジネスモデルの見直しを進めているともいえよう。

 アマゾンは電子商取引(Eコマース)による書籍や家電などのハードウエア商品の販売が売上高の主軸となっている。そうしたなか、企業向けの広い意味のサブスクリプションビジネスとして、アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)のようなクラウドサービスの売上高のシェアを伸ばしている点が注目できる。2019年第2四半期時点での過去12か月の売上高に占めるAWSの比率は約12%となっている[3]。

 以上のように、GAFAは全般に、サブスクリプションモデルを既にビジネスに取り込んでいるものの売上高に占める比率がそれほど大きいわけではない。フェイスブックについては、サブスクリプションビジネスへ一部のサービスで部分的に試験的に取り組んでいるという報道はあるものの、一般に提供されるものにはなっていないのが現状だ。

サブスクリプションモデルの波に上手に乗ったマイクロソフト

 GAFAには含まれていないが、世界を代表するIT大手でサブスクリプションモデルの波へ上手に乗った企業がある。それがマイクロソフトとアドビだ。

 マイクロソフトについては、この連載でも「マイクロソフトが再び輝くための成長のカギとは?」で取り上げた[4]。これまで、「マイクロソフトオフィス(Microsoft Office)」などのビジネスソフトウエア製品は箱詰めして売り切り販売していたが、「オフィス365(Office 365)」という新たなブランドを立ち上げ、マイクロソフトオフィスなどをサブスクリプションモデルで法人・個人向けに提供する形態へ変革した。売り切りで購入することもまだできるが、今ではオフィスソフトを月・年当たりの課金で利用する場合が多いだろう。

 同社のオフィス製品を含む「プロダクティビティーとビジネスプロセス(Productivity and Business Processes)」セグメントは2020年度第1四半期の会社による業績予想で、売上高が107億~109億ドルになるとされており、全社の約3分の1を占める[5]。それほどの大きな規模のビジネスで同社は「売り切り」から「サブスク」への切り替えを進めているといえる。

 併せて、マイクロソフトは「アジュール(Azure)」と総称するクラウドサービスを急速に拡充している。「マイクロソフトといえばパソコン用のオフィスソフトが売上高の主力なのだろう」とお考えの方も多いかもしれないが、実はアジュールを含む企業の情報システム基盤製品・サービスをまとめた「インテリジェントクラウド(Intelligent Cloud)」セグメントの売上高は、2020年度第1四半期の売上高の業績予想では103億~105億ドルになり、やはり全社の約3分の1を占める。

 同セグメントの中で、アジュールの2019年度第4四半期の売上高成長率は対前年同期比で64%増と非常に大きな伸びを続けており、先ほど見たオフィス365のようなサブスクリプションモデルのビジネスの売上高が大きく伸びている様子がうかがえる[6]。

 マイクロソフトの主力製品であるソフトウエアはインターネットの進化にともなって、ネットワーク経由で提供できるようになった。同社はその波に乗り、これまでの自社製品の販売方法を抜本的に切り替えたといえる。

アドビは9割近くがサブスクリプションモデルでの売り上げ

 「フォトショップPhotoshop)」「イラストレーター(Illustrator)」などのデザインソフトウエア、並びにアクロバットAcrobat)などのドキュメントソフトウエアの大手として知られるアドビもサブスクリプションモデルへの移行をうまく進めた例としてよく取り上げられる。

 アドビは「フォトショップ」や「イラストレーター」といったソフトウエアを、「アドビ・クリエイティブ・クラウド」というサブスクリプションモデルの課金サービスで提供している。2019年度の売上高90.3億ドルのうち、その「アドビ・クリエイティブ・クラウドAdobe Creative Cloud)」が含まれる「デジタルメディア(Digital Media)」セグメントの売上高が63.3億ドルに達する[7]。

 また、アドビでは、そうしたサブスクリプションモデルに基づくビジネスの比率が高まり、全社の売上高の88%を占めるという。同比率は2016年度には78%、2017年度には84%であった。売上高を拡大しながら比率が拡大していることも併せて考えれば、同社のソフトウエアビジネスはサブスクリプションモデルへの転換がうまく進んでいると言える[8]。

 マイクロソフトとアドビに共通するのは、もともと実績があった、ややもすれば一つひとつは高価なパッケージ製品の売り方を、デジタルな分割払いへ変えたと言えなくもないところだ。もちろん、マイクロソフトのアジュールでは、それまでパッケージで提供していなかったような新サービスをサブスクリプションモデルで提供するといったビジネスを行っているが、それらだけではここまで急速な転換はできなかっただろう。

 そして、さらにややうがった見方をすれば、インターネットという社会インフラのアップグレードが続くという外部環境の変化と、高価なパッケージ製品に対する利用者の価格引き下げ圧力が、デジタルな分割払いへの転換を余儀なくしたとも言える。つまり、サブスクリプションモデルへの転換が、どこまで企業による主導的な動きであったか、どこまで利用者の利便性を高めたのかどうか判然としないところがある。

 それに比べると、ネットフリックスはインフラ環境のアップグレードと利用者のニーズをさらに上手に組み合わせ、市場を米国内から世界にフォーカスを拡大して成長していると感じる。次回は同社について見てみよう。

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