就活生が優位な売り手市場が続く中、苦労して確保した若手社員がすぐに退職してしまうことに企業人事は頭を悩ませている。待遇や賃金に対する不満がなくても去っていく背景にはどんな思いがあるのか。大手企業などからスタートアップ企業に転職した3人に集まってもらい、本音を語ってもらった。座談会は人材サービスを手がけるビズリーチ(東京・渋谷)の協力で開催した。

「最初の就職では、なんとなく大企業を選んでいた」との意見も聞かれた

「最初の就職では、なんとなく大企業を選んでいた」との意見も聞かれた

■定型業務に飽き飽き

――これまでは「石の上にも三年」というように、ある程度経験を積んでから転職することが一般的でした。しかし皆さんは2年で1社目を退職しています。なぜそんなに早く転職しようと思ったのですか。

 馬場氏 「新卒では希望通りゲーム制作会社に入社しました。配属されたのは人気作品のチームだったのですが、すでに分業が進んでいて、与えられた業務の範囲が狭く、乗り越える困難などもありませんでした。会社の規模が大きい分、個人の裁量が小さく『自分がいなくても会社には何の影響もないんだ』と感じ、焦りも感じました。そう思ったので仕事で自分の裁量が大きいスタートアップを選びました」

岩下氏 「私も同じです。1つ目は製薬会社、2つ目は中央省庁でしたが、いずれも新人として簡単な業務に固定されがちで、成長率が大きい20代をこんな仕事に費やしてよいか疑問に感じるようになりました」

■転職のハードルは?

――転職のハードルは高くはありませんでしたか。

 岩下氏 「そんなに大変ではありませんでした。気軽な気持ちで転職サイトに登録したらすぐに今の会社の社長からダイレクトにメッセージをもらいトントン拍子で内定をもらいました。前職からは引き留めがありましたが、気持ちが決まっていたので迷いはありませんでした」

 柏原氏「私も転職そのものは極めてスムーズでしたが、その後が大変でした。親には転職を決めた後報告したら、『なぜ福利厚生が整っている大手を辞めるんだ』ときつく怒られましたね。仕事のやりがいなどを説明してなんとか納得してもらいましたが親世代との考え方の違いに驚きました」

 馬場氏 「本当にそう思います。『まずは3年働かないといけない』といろいろな人に諭されました。でも求められる人材が激しく変わる中で、技術者として3年も無駄なことをやっていると転職しにくいと思います。例えばエンジニアとして入ってもずっとエクセルの入力しかさせてもらえない友人もいますし」

■大手信仰で失敗

――今から振り返ると、新卒での就職活動に問題があったと考えていますか。

 岩下氏 「在籍していた都内の国立大の友人らはメガバンクや官僚など大きな組織に行く傾向がありました。自分も『大手がよい』『農学部だったので食品に関わるところがよい』と考え新卒時の思いは果たしました。今とは全然違う考え方ですが」

 柏原氏 「私も深く考えず、『なんとなく』大企業を選んでいました。中小企業やスタートアップは考えていませんでした。インターンシップ(職業体験)やOB訪問は全くやらず、会社説明会とパンフレットだけで判断していました。今だから言えますが、入社してから『違うな』と思ったら転身できるように、学生時代から資格の勉強をしておくなど準備をしておけばよかったとも思います」

 馬場氏 「3年生の10月に前職の会社が開催したハッカソンに参加したところ、早期選考の誘いを受け面接を経て内定をもらいました。周りに比べると圧倒的に早く就活が終わりました。その結果、自己分析や自分が本当にやりたいことなどを考える機会がありませんでした。新卒だからこそ『様々な企業を受けられる』という特権があると思い後悔しています」

■一括では育たない?

――日本の会社についてどう思いますか。

 柏原氏 「もう少し変化に対応してほしいと思います。『今までやってきたことだからやる』という考え方が根底に根付いてしまっているように感じます。例えば前職で全社を挙げてペーパーレス化に乗り出した際、社内が大混乱に陥りました」

 岩下氏 「もはや1社で一生働き続ける時代ではないと思います。会社は生きるための糧を稼いで社会に貢献する場であり、あくまでツールにすぎないと考えています」

 柏原氏 トヨタ自動車の豊田章男社長が『終身雇用は難しい』とコメントしていました。時代の変化が来ているのは確実です。好きなことややりたいことをやるという選択肢も考えていいのではないでしょうか」

――経団連が通年採用の導入を推進し始めました。

 岩下氏 「賛成です。学生が興味があるポイントがあれば自然に応募するでしょうから、企業側はいつでもそういう人材を受け入れるべきです。今の新卒一括採用では、企業が応募者のどんなところを見ているのか分からないのが不満ですね」

 馬場氏 「一括採用の欠点は、十分に教育できないことにあるのではないかと思います。一部のできる人は伸びますが、最初からスキルがない人は単に指示に従う作業員になるほかありません。現場にはキャパシティーが足りませんからね」

「ただ、通年採用にも不安はあります。仮に早期に2年早く内定をもらっても、2年後に教育できる人が社内に残っているか、会社が順調かまったく想像がつきません。今はデータサイエンティストが人気ですが、10年後になくなる業界かもしれないですよね」

 柏原氏 「通年採用の方が、留学経験者が柔軟に対応できるのは確かですが、自分のやりたいことなどを考えて就活できるのは一部の人だけでしょう。ある程度横並びのシステムがないと、就活を始めない人たちが出てきてしまうのではないかと心配しています。通年採用を取り入れつつも、セーフティーネットのようなものを設けて、決まった時期に進路を固めていくことも大切だと思います」

若手人材の流動化が進み始めたことはデータからも明らかだ。ビズリーチの若手転職サービス「キャリトレ」では、22~27歳の登録者数が2年前から約2倍になった。
 就職情報サービスのマイナビ(東京・千代田)の調査では、2019年に入社した新入社員が「会社で何年くらい働くか」という質問に対し、「5年以内」と答えた割合は約37%。「定年まで働き続ける」(約22%)を上回った。

 キャリトレ事業部長の小出毅氏は「現状、学生の間は得られる情報に限界があり、キャリア観を身につける方法も少ない」と話す。意欲的な学生は一度は社会人として働き始めてから、客観的に企業を見て「スキルアップや自己実現を意識しながら働く場所を選ぶ」(小出氏)。
 しかし、手軽な転職サービスで得られる情報に頼ってばかりでは、周囲の価値観や説明会の雰囲気といった情報をあてにした就活時と同じ結果を招くおそれもある。
 仕事を面白く感じないのが裁量が少ないことが原因であるならば、すぐに転職を考えるのは早計かもしれない。一定期間従事しなければ身につかないスキルもある。
 「仕事を辞めずに続けることで楽しさややりがいが見えてくることもある」(ディスコの武井房子上席研究員)との見方ももちろんある。
(構成 企業報道部 橋本剛志氏、鈴木洋介氏)